埼玉県における騒音職場の管理の実態
総 括 | 埼玉産業保健推進センター | 所 長 | 和田 攻 |
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共同研究者 | 埼玉産業保健推進センター | 相談員 | 武石 容子 |
宇佐見 隆廣 | |||
植田 康久 | |||
星野 ゆかり | |||
児島 俊則 |
総 括 | 埼玉産業保健推進センター 所 長 和田 攻 |
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共同研究者 | 埼玉産業保健推進センター 相談員
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I. はじめに
近年、全国で等価騒音レベル85dB(A)以上の騒音職場で従事する労働者は100万人以上と推定されている。しかし騒音健診の受診者数は年間20万人強に過ぎず、騒音性難聴の労災認定は年間500件前後を推移したままである。現在、騒音性難聴には有効な治療法がなく、騒音測定により予防的に対策を講じることが非常に大切である。騒音作業による健康障害は個人差が大きく、各人の騒音健診結果から就業措置を講ずる必要がある。このように騒音職場管理の重要性が示唆されていながらも、これまで埼玉県内の管理実態を把握するには至っていなかった。そこで今回、平成4年に策定された「騒音障害防止のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」と省略)に示されている管理の実施状況から問題点とその背景を分析し、今後の対策について検討した。
II. 対象と方法
平成17年度全国労働衛生週間に、大宮、浦和、所沢地区労働基準協会の協力を得て、各地区労働基準協会会員事業場より製造業1000事業場を対象に、郵送による「ガイドライン」に基づいたアンケート調査を実施した。回答が得られた346事業場(回収率34.6%)のうち、騒音職場を有する140事業場を解析対象とした。
III. 結果・考察
1. 製造業における騒音職場の背景
製造業346事業場はそれぞれ粉じんや有機溶剤などの有害業務を有していたが、中でも騒音は140事業場と最多であった(図1)。騒音職場を有する140事業場の事業場規模は50人以上300人未満が47.9%と最も多く、労働衛生管理体制の整っている事業場が82.1%、その他の有害業務を有する事業場が66.4%であった。
2. 「ガイドライン」による管理状況
騒音測定は63.6%の事業場で実施されていた。騒音表示は45.0%(第Ⅱ及びⅢ管理区分76.9%)、騒音対策は78.6%(第Ⅱ及びⅢ管理区分98.1%)実施されていたが、その内容は防音保護具の対応が67.1%(第Ⅱ及びⅢ管理区分94.1%)と最多であった。騒音健診はわずか22.1%(第Ⅱ及びⅢ管理区分38.0%)しか実施されておらず、大部分の64.3%は一般健診で代用されていた。有所見者に対する保健指導は62.9%実施されていたが、その内容は産業医の関わりが30.7%と最多であった。就業措置は56.4%実施され、その内容は防音保護具の使用が50.7%と最多であった。労働衛生教育は60.7%実施されていたが、その内容は防音保護具の使用方法が47.9%と最多であった。また、「ガイドライン」の認知は45.0%、日本耳鼻咽喉科学会(以下日耳鼻と省略)指導による精密検査(日耳鼻作成依頼票の使用や日耳鼻認定騒音性難聴担当医の受診)の認知は26.4%と低率であった。一方、管理上大切なこととして事業者の理解が62.1%、産業保健推進センターへの希望として労働衛生教育が13.6%見られた。以上、管理の実施状況からは聴覚管理が最も立ち後れていた(図2)。
IV. 考察
1. 聴覚管理の立ち後れ
騒音性難聴の予防のためには騒音健診による有所見者の選定が是非とも必要である。しかし、今回のように多くが一般健診で代用されているような状況では、それ以降の保健指導や就業措置が不十分となる可能性がある。したがって、今後、騒音職場では一般健診から騒音健診への切り換えが必要となるであろう。このように騒音健診が十分行われていない背景として、行政指導による特殊健診のため、義務化されていない影響などがあるものと考えられた。健診結果の評価及び保健指導については「ガイドライン」の解説で「耳科的知識を有する産業医または耳鼻咽喉科専門医が行う」となっている。しかし現状では産業医にそれを求めるのは困難であり、日耳鼻認定騒音性難聴担当医の受診を勧めるのが妥当と考えたい。
2. 不十分な管理状況を打開するための方策
地域産業保健センターによる小規模事業場への働きかけ、産業保健推進センターによる事業主セミナーや事業場への講師派遣を通して「ガイドライン」の啓蒙、騒音健診を必須とした行政指導の徹底などが必要と考えられる。その際、聴覚管理については日耳鼻指導による精密検査のさらなる普及(平成14年頃日本医師会、労働福祉事業団、厚生労働省から地域産業保健センター、産業保健推進センター、労働局に日耳鼻認定騒音性難聴担当医名簿及びその活用方について配布済み)に努めることが必要である。
V. おわりに
1. 聴覚管理の立ち後れ
以上より、これからは現行の労働安全衛生規則の対象作業場を「ガイドライン」並みにするなどさらなる改正が必要となるであろう。その際には騒音健診の法制化も視野に入れた検討が必要と考えられた。