勤労者の睡眠実態調査
総 括 | 埼玉産業保健推進センター | 所 長 | 和田 攻 |
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共同研究者 | 埼玉産業保健推進センター | 相談員 | 飯田 英晴 |
林 文明 | |||
宇佐見 隆廣 | |||
植田 康久 | |||
藤田 寿久 | |||
興原 幸子 |
総 括 | 埼玉産業保健推進センター 所 長 和田 攻 |
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共同研究者 | 埼玉産業保健推進センター 相談員
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I. はじめに
睡眠障害の有病率は年々増加していると言われている。米国では成人の約1/3が何らかの睡眠障害を自覚し、その約半数には速やかな治療が必要であると指摘されている。現代の我が国でも、生産の多様化によるシフト勤務が増加し、それに従って生活様式が変化し、夜型生活者や睡眠時間の不規則型、短縮時間睡眠者が増加している。 このような活動-休止(睡眠)リズムの不規則化は生活の質(QOL)にも大きな影響を及ぼす重大な問題である。そればかりか、世界中で起こる重大な結果をもたらす事故の多くには、睡眠障害が関与していることが指摘されている。 睡眠障害を持つ者の多くは、自分の睡眠異常に気づかず重大な事故を起こすことも少なくない。勤労者が受ける様々な心理社会的ストレスは、睡眠障害を引き起こす重要な要因であり、ストレスと睡眠障害との関連を明らかにし、睡眠障害の実態を把握し、睡眠に関する自己管理の対策を考案することを目的に、勤労者に対して睡眠実態調査を行った。
II. 調査対象と方法
県下約1500名の勤労者を対象に、ピッツバーグ睡眠調査票を改変した睡眠に関するアンケート調査を行い、睡眠障害と関連するストレス、勤務様態、生活の質に関する項目についても調査した。また、近年注目されている睡眠時呼吸についての簡単なスクリーニング項目も設定した。製造業、運輸業、サービス業、警備職、一般事務職など様々な業種の勤労者1405名から回答を得た。男性1118名、女性287名と男女比には違いがあった。内シフト勤務者578名であった。
III. 結果
1. 入眠までの時間
主観的入眠潜時は30分以内に眠りに就く者が圧倒的に多い(92.1%)が、1時間以上入眠に時間を要する者が96名(7.1%)あった。
2. 睡眠時間
睡眠時間5時間未満の超短時間睡眠者が80名(5.8%)で、5~6時間が20%、6~7時間が36.4%、7時間以上が37.7%であった。
3. 主観的な睡眠不足
主観的に十分に睡眠がとれていないと感じている者は、291名(20.8%)で、その理由として、入眠に30分以上もかかった(103名)、夜中何度も目覚めた(104名)、寝苦しかった(57名)などの項目があげられた。また昼間の時間帯に就寝したからという理由で主観的な睡眠不足を自覚した者は40名(14.3%)であった。
4. 覚醒後の苦痛
主観的に目覚めてから苦痛を感じた者は274名(19.5%)で、その理由として、熟眠感の欠如(175名)、離床困難(102名)、前日の疲れが残る(190名)などの項目があげられた。
5. 睡眠、活動、昼間の眠気に就いてのグローバル評価
1週間の睡眠についての概括的評価で、悪いないしは非常に悪いと評価した者は379名(26.8%)であった。1週間の活動に関しての概括評価では悪いないしは非常に悪いと評価した者は287名(20.5%)であった。昼間の過剰な眠気に関する概括評価で、強いないしは非常に強いと評価した者は114名(8.1%)であった。
6. 睡眠時の無呼吸
同居者から睡眠中に息が止まっていたと指摘された者は76名で、大きなイビキを指摘された者は369名であった。
7. ストレス
職場の人間関係に強いストレスを感じている者は131名(10%)、仕事の量に強いストレスを感じている者は147名(11%)、仕事内容に強くストレスを感じている者は60名(4.6%)、昇進・給与に関して強いストレスを感じている者は243名(19.2%)であった。また心身の不調、病気について強いストレスを感じている者は93名(7.2%)であった。また、人間関係、仕事の量、仕事内容に関する主観的なストレス強度は、この1週間の睡眠に対する概括的評価との間には有意な相関があり、ストレスを強く感じる者ほど、睡眠についても主観的に悪いと評価していた。
IV. 考察
国立公衆衛生院疫学の調査(1997年)で、成人の約5人に1人がいわゆる不眠症(寝つけない、途中で目が覚めるなどの症状)あるいは質の悪い睡眠を自覚していると推定された。また、1999年と2000年になされた大規模な勤労者を対象とした睡眠に関する調査でも、睡眠時間に関してやや不足している、ないし非常に不足していると回答した者は男性では約40%、女性では50%を超えていると報告されている。今回の我々の結果でも、主観的に十分睡眠がとれていないと回答した者は、20%を越え、入眠に時間がかかる、途中で目覚めるなどの理由が多く挙げられた。また、この1ヶ月間の睡眠に関する概括評価でも、約27%もの勤労者が、非常に悪いないしは悪いと評価していた。
エップワース眠気尺度を用いた、昼間の眠気に関する報告(4360名を対象に行った調査)では男性の約7%、女性の約13%が昼間に非常に強い眠気を自覚していた。今回我々の調査でも、覚醒後に苦痛を感じている者は19.5%で、昼間の過剰な眠気を自覚している者は8.1%であった。またその理由として、熟眠感の欠如や離床困難、前日の疲労感が残る等の理由で、今までの報告とほぼ一致するような結果であった。
睡眠困難の理由として、夜間トイレに起きた、仕事上の問題、健康上の問題、悩み事などが上位を占めると言う報告もあり、我々の結果でも、仕事上のストレスや人間関係でのストレスが睡眠の主観的評価と相関があり、ストレス要因は睡眠の質に関わる大きな問題であることが指摘される。
睡眠時無呼吸症候群はポリグラフ記録などで厳密に測定されなければ確定的な診断には至らないが、スクリーニング検査では睡眠時無呼吸の高危険者の比率は、男性では1.5%~3.5%位と報告されており、我々の結果では家族に無呼吸を指摘された者は76名、5.8%と高率であった。年齢の要因、イビキとの関連で更に分析する必要がある。
今回の調査で、勤労者は必ずしも良好な睡眠ではなく、睡眠不足や朝の目覚めの苦痛、昼間の眠気など何らかの睡眠障害が多く見られ、ストレス要因との関連もあった。勤労者の生活の質の向上、事故防止の観点から睡眠については十分な検討と対策を立てなければならない。