埼玉県下における産業保健スタッフによる産業保健活動の実態に関する調査研究
主任研究者 | 埼玉産業保健推進センター | 所 長 | 沖野 哲郎 |
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共同研究者 | 埼玉産業保健推進センター | 相談員 | 和田 攻 |
植田 康久 | |||
村田 勝敬 | |||
興原 幸子 |
主任研究者 | 埼玉産業保健推進センター 所 長 沖野 哲郎 |
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共同研究者 | 埼玉産業保健推進センター 相談員
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【研究目的】
企業等に勤務する産業保健スタッフのうち保健婦(士)、看護婦(士)(以下、「産業看護職」)は保健指導や健康相談などの分野で幅広く活躍していると言われているが、その具体的職務は必ずしも明確でない。本研究は、埼玉県下の産業看護職の活動実態、事業所における産業看護職の評価、産業保健活動の取り組みおよび問題点を明らかにし、併せて当センターによる企業および産業看護職に対する支援方策の検討の一助に資することを目的として実施した。
【対象と方法】
埼玉県内の労働者規模300人以上の事業所(産業看護職不在が調査前に確認されている事業所は除いた)および規模300人未満で現在産業看護職の勤務が把握されている事業所の計312事業所を対象とした。また、産業看護職は事業所、健康診断機関、健康保険組合等に所属し、氏名、勤務先が確認されている保健婦、看護婦、准看護婦129名を対象とした。郵送法による質問紙票(産業看護職および事業所調査票の2種類を使用)調査を行ない、141事業所および84名の産業看護職から回答があった(回収率は、事業所45.2%、産業看護職65.1%)。
【結果】
1. 産業看護職の諸属性
【1】回答した産業看護職の年齢は50歳代が32%であり、40歳代30%、30歳代21%、20歳代10%、60歳代7%であった。産業看護の経験年数は5年未満が30%、10~14年24%、5~9年21%、15~19年13%、20年以上12%であった。
【2】勤務形態は常勤69%、嘱託18%、その他13%であった。
【3】業種別産業看護職は機械器具製造業が26%と高く、前記以外の製造業14%、化学工業12%の順であり、規模別では1,000人以上が48%、ついで500~999人20%であった。
【4】配属先は人事・労務・総務担当部署が24%、健康管理室・センター23%、保健室・医務室17%、診療所13%、安全衛生担当部署10%であった。
【5】配属先の責任者は「事務職系管理者・責任者」56%、「産業医」36%であった。
【6】職場の産業看護職員数は1人が40%、2人20%、3人6%、4人6%、5人以上28%であった。
2. 産業看護職の業務
【1】産業看護職の日常業務における産業保健活動と診療業務の割合については、産業保健活動および診療業務の両方を行っている者は85%おり、産業保健活動のみ11%、診療業務のみ2%であった。産業看護職が行っている日常業務を図1に示す。健康相談(メンタルを含む)が87%ともっとも高く、次いで健診結果による保健指導81%、救急処置と生活習慣病の予防活動74%の順であった。これらの回答内容は事業所調査の結果と幾分異なっていた。
【2】産業保健活動の事業所での取り組みと問題点に関する回答を産業看護職、看護職配属事業所、看護職不在事業所で比較した結果を図2に示す。「生活習慣病対策」の取り組みは産業看護職を配属している事業所と産業看護職の回答はいずれも80%に達していたが、看護職不在の事業所では50%未満であった。この傾向は「メンタルヘルス対策」、「健康保持増進対策」でも見られた。また、事業所ではいずれも「職場の快適化」に取り組んでいると60%以上が回答しているのに対し、産業看護職では40%であった。産業保健活動の問題点の認識に違いが著しかったのは「産業医との連携不足」であり、産業看護職配属事業所では産業医との連携不足は殆どないと回答していたが(10%未満)、30%の産業看護職は連携不足と考えていた。同様の乖離は「事業主の理解不足」でも見られた。
3. 産業看護職の評価
事業所からみた産業看護職に対する評価は、98%が「評価ないしある程度評価されている」と回答し、この値は産業看護職自身の評価83%よりも高かった。
【結果】
これらのうち地域産業保健センターの存在を知っていた事業場は32.4%であったが実際に利用したことがあったのは4.3%であった。小規模事業場における産業保健活動については、定期健康診断の実施率が90%以上であり、そのうち95%以上が個人宛に結果を通知しており、事業主の健康管理に対する意識が高いことが推測された。しかし、職場の健康管理について「積極的に産業保健活動を実施している」と答えた事業場は約50%で、主に時間的・経済的理由から、必ずしも満足のいく産業保健活動を実施していないという現状が推測された。
個々の質問に対する回答を事業場の従業員数別に検討すると、従業員が多い事業場ほど産業保健活動を積極的に実施しておりその現状に対する満足度も高い傾向があった。また、地域産業保健センターを知っていたか否かで検討すると、地域産業保健センターの存在を知らなかった事業場より知っていた事業場の方が産業保健活動を積極的に実施している傾向が窺えた。
具体的には、特殊健診の実施率、安全衛生推進者の選任率、作業環境測定の実施率は地域産業保健センターの存在を知っていた事業場で高く、その他の産業保健活動に関しても全体的に地域産業保健センターの存在を知らなかった事業場よりも実施率が高い傾向がみられた。また、産業保健活動の現状に対する満足度も、地域産業保健センターの存在を知っていた事業場の方が知らなかった事業場よりも高い傾向がみられた。
【考察と結論】
以上より、埼玉県内の小規模事業場の約1/3が地域産業保健センターの存在を知っていたが、ほとんど利用していないことが明らかにされた。しかしながら、地域産業保健センターの存在を知っていた事業場では概して産業保健活動が積極的に行われている傾向がみられたことより、今後地域産業保健センターの活動内容について積極的に情報提供し、活用を促進すれば、小規模事業場における産業保健活動が大いに活性化される可能性が高いと考えられた。